受託開発のボトルネックはどこにあるでしょうか。技術力でしょうか、人手でしょうか。実際には、その手前にある「プロジェクトが特定の人に依存すること」です。当社がこの依存をどう解いているのか、体制とAI活用の実際をご紹介します。
受託開発は、組織として大きくしていくことが難しい事業です。案件の経緯や判断の理由が一人のPMに蓄積され、そのPMの下にメンバーが付く形になりやすいため、PMを増やして組織を広げようとした途端に、引き継ぎと教育の壁に突き当たります。
当社はこのハードルを越えるために、業務のあらゆる場面にAIを組み込んできました。この記事では、当社がどのような体制で受託開発を進め、そこでAIをどのように活用しているのか、そしてそれが費用にどう表れているのかをご紹介します。
想定している読者は、開発の発注をご検討中の企業の皆様と、当社で働くことを検討されている皆様です。発注側の方には、担当が替わっても進行が乱れない理由を、入社を検討されている方には、参画後にどのような環境で働くことになるのかを、それぞれ受け取っていただける内容にしています。まずは、受託開発のボトルネックがどこにあるのかから見ていきます。
受託開発における人への依存
受託開発のボトルネックは、技術力よりも先に、プロジェクトが特定の人に依存する点にあります。
一人の担当者が案件を持ち、経緯と判断理由がその人の中に蓄積されていく形は、担当者が動いている間は問題なく機能します。説明も確認も要らないぶん進行はむしろ速く、短期的には効率的にすら見えます。だからこそ、多くの現場でこの形が自然に選ばれています。
問題が生じるのは、その担当者が動けなくなったときです。頭の中にある情報は取り出せないため、後任者は残された成果物から経緯を推測することになりますが、なぜこの設計を採用したのか、なぜこの仕様を見送ったのかは、記録がなければ調べ直すか聞き直すしかありません。そこから発生するのが、前任者から後任者への説明、経緯と判断理由の再調査、一度説明した内容についてのクライアントへの再ヒアリング、引き継ぎ期間中の二重人員といった作業です。
いずれも成果物を前に進めないまま時間だけを消費します。人への依存は、平常時には効率として現れ、担当交代や体制変更が起きた時点でコストに変わります。
当社の体制は、この構造をはじめから作らないことを出発点にしています。
依存を生まない3人体制
この依存を生じさせないために、当社はすべてのプロジェクトを社内3人体制で進めています。
3人が関与していれば、誰かが動けなくなっても案件は止まらず、残りの2名が経緯を把握しているぶん立ち上げ直す作業も発生しません。
ただし、人数を配置すれば解決するわけではありません。3人がそれぞれ別のことしか知らなければ、依存の単位が一人から三人に増えるだけで、構造としては何も変わらないからです。3人体制が意味を持つのは、次の運用と組み合わせたときに限られます。
人に依存しない情報の持ち方
その運用の核心は、一人が見聞きした情報がその人にしかない、という状態を作らないことです。
そこで当社では、各メンバーが見聞きした情報と、すべてのミーティングの内容を、機密情報を伏せたうえで書き出しています。クライアントとの打ち合わせで出た要望、その場で確認した認識、決まらなかった事項とその理由といったものを、3人が同じように参照できる状態にしています。
この運用により、伝える相手がすでに把握しているぶん、担当が変わった際に会議を開いて口頭で伝える時間が発生せず、引き継ぎという工程自体が不要になります。
書き出す手間は当然かかりますが、その手間は案件が動いている期間に分散して支払うものであり、担当交代の時点でまとめて生じる再調査や再ヒアリングとは、コストの性質が異なります。
ただし、書き出すことと同じくらい重要なのが、書き出した情報をどこに置くかです。
権限に基づく情報の置き場所
書き出した情報が個人のPCやチャットの履歴に散在していれば、記録していないのとほとんど変わりません。
当社は、機密情報を伏せたうえで書き出した案件の情報をGitHub上のリポジトリに集約しており、背景、議事録、要件、判断理由、設計、コードを、担当個人ではなく権限を持つメンバー全員が参照できる場所に置いています。代表、開発、営業が同じ場所を参照して業務を進める形です。
ただし、すべてを全員に開放しているわけではなく、部門ごとにリポジトリと権限を分離して必要な範囲に限定しており、営業メンバーの手元に経理データは存在しませんし、クライアントからお預かりしたデータについても参照できる範囲を定めて運用しています。
また、蓄積する情報は人が判断するための記録であることを前提としつつ、結果として開発時に使うAIエージェント(Claude CodeやCursorなど)もそのまま読み取れる形式になっているため、過去の経緯の確認は検索と意識しないほど短時間で完了します。同じ理由で、誰かに聞かなければ分からないという状況も生じにくく、日々のやり取りもチャットでの確認をほとんど必要としません。受託開発ではチャットでの確認や共有が業務時間の大部分を占めることも珍しくありませんが、当社ではその大半を記録の参照に置き換えています。
当社はこの体制をとっているため、発注いただく側から見れば説明のやり直しが発生せず、参画したばかりのメンバーから見れば前任者に確認を取らずに経緯を辿ることができます。
ここまでは開発案件の話でしたが、情報を個人ではなく仕組みに持たせるという考え方は、案件の外側にも広げられます。
開発以外の業務手順の資産化
たとえば、契約書の作成、法務レビュー、要件定義、見積のヒアリング、営業リストの作成、Amazonの実績分析。こうした開発以外の業務も、担当者のノウハウとして保持するのではなく、AIが実行できる手順として社内に蓄積しているため、全員が同じ手順を参照でき、参画初日から利用できます。
また、案件固有の数字や相手先の事情は、その案件の記録として残す一方、案件をまたいで使える判断や手順だけを、共通の場所に集約します。対外に出す書類の雛形と、社内でしか扱わない原価や条件も、同じ場所には置いていません。
この形の効果は、改善が個人ではなく会社に蓄積する点にあります。一人が見積の作り方を改善すれば、次の見積はそこからやり直さずに済み、その改善はその人が抜けても残ります。
バックオフィスの自動化
社内業務の自動化も同じ方針で進めています。手順を個人のノウハウにせず資産として残す、という考え方は、経理などのバックオフィス業務にもそのまま当てはまるためです。
経理業務は会計ソフトとAIを接続して運用しており、仕訳、突合、レポート作成までを手作業に頼らず処理しています。ただし、確認と承認は必ず人が行います。決算工程についても手順書として文書化済みです。
バックオフィスに人員を積み増す必要がないため、その人件費が開発単価に転嫁されることもありません。
もっとも、記録と仕組みを整えるだけで、人がすぐに動けるようになるわけではありません。仕組みでは埋まらない部分を埋めるのが、参画時の教育です。
参画時の業務知識・ツール教育
案件の記録をどれだけ共有していても、業界そのものの前提までは埋まりません。
モールごとに仕様が異なること、在庫と受注がどう連動するか、リユースでは同じ商品が二つとないこと。こうした前提は個々の案件の記録には表れず、知らない状態で案件に入れば、まず業界を把握するところから始めることになります。
そのため当社は、参画直後にEC・リユース領域の基礎教育を実施しています。
教育の対象は開発領域の知識にとどまりません。エンジニアかどうかにかかわらず、Cursor、Claude Code、GitHubの使い方もあわせて研修しており、営業やバックオフィスのメンバーも同じツールで同じ手順にアクセスできる状態で案件に入ります。
案件の記録が経緯を埋め、参画時の教育が業界の前提を埋める。この二つがそろっているため、参画したメンバーは早い段階から案件の中で動けるようになります。
抑えた費用で提供できる仕組み
ここまでに述べてきた体制は、最終的に費用に表れます。
引き継ぎ、再調査、再ヒアリング、教育。こうした社内の事情で生じる稼働は、通常はクライアントへの請求にならず、単価を上げるか利益率を削るかたちで、開発会社自身が吸収します。
当社の体制は、この負担が構造的に発生しにくいよう組んでいます。3人が同じ情報を持っているため引き継ぎの説明が要らず、経緯が残っているため再調査が生じず、一度伺った内容は記録されているため聞き直しも起きません。結果として、単価を下げても利益率が残り、当社が同じ内容を抑えた費用で提供できていることにつながっています。
結び
当社の開発体制を支えているのは、3人が同じ情報を持つことで人への依存を生じさせない仕組み、手順を資産として残す仕組み、そして何を作るかの判断を人が持ち続ける仕組み、という3点です。
何を作るべきか、既製品で足りるのか、この仕様を採用すべきか。こうした判断は3人が同じ情報を持ったうえで人が行い、AIが担っているのは、判断に必要な情報を集める作業と、定められた手順を実行する作業です。情報を書き出しているのも、AIに読ませるためではなく、人が判断するための材料をそろえるためです。
継続すること自体は容易ではありません。書き出す手間を惜しめば崩れますし、一人で進めたほうが早い場面もあります。そこでもこの3点を維持できるかどうかは、なぜそうするのかを全員が理解しているかにかかっています。当社が意識的に運用しているのは、この理解を全員が持ち続けられるようにすることです。
発注をご検討中の方にとってはこの体制そのものが、入社を検討されている方にとってはこの仕組みの中で働く日々の姿が、判断の材料になるはずです。
